日本画家 西田俊英 公式ホームページ 作品解説「煙雨山河」

「煙雨山河」 165×336 四曲屏風 東京オペラシティーアートギャラリー

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 30代の半ば、院展での落選や仕事のスランプ等が重なり、自分の絵の方向性に疑問を持ち、何を描くべきかと迷い始めてしまった。逃げるように一の倉沢や新潟の山々などに籠り、ひたすら自然の中で眼前のものを在るが儘にスケッチしていた。頭を空にし、目と指が一体化したような時間。逞しい自然を一筆、一筆と写し行く作業。そんな事を続けることにより、自信を無くした心は、自然を自然の儘に描くことのできる喜びに変わり、新たな挑戦をする気力を培うことができたのだった。

 画面中央は新潟の麒麟山の頂上で、阿賀野川と常浪川が合流する地点である。
 左方は大河の流れ、右方は絶壁の中、岩山の痩せ尾根道を登っていくと、頂上付近は松林に覆われた荒々しい山容となる。しかし、独立峰なので大画面の眺望が素晴らしく、この日本の山河ともいうべき風景を描き尽くしたいと何日も登っていた。
 とある雨模様の日、「こんなに降っていてはどうせ描けやしないな。」と鈍る心を抑え登っている途中、まるで天からの贈り物のように雨が止み、霧が生きもののように蠢いている光景を見せてくれた。刻一刻と様変わりしながら、あたかも天と山、水と風との大スペクタクルショーのように、心高鳴る素晴らしいひと時だった。
 この感動を大きな画面で是非描いてみたいと、初めて屏風の形式に挑戦してみた。
 湿潤で美しい日本の風景を描き残す事は、この時から、そしてこれからも追い続ける私のテーマの一つでもある。